Microsoftがエンジニアリング部門を改革、“クラウド軸”の新体制へと明確にシフト – クラウド Watch



 米Microsoftが、エンジニアリング部門の新たな組織体制を発表した。

 営業/マーケティング領域を担当する日本マイクロソフトに直接影響を及ぼすものではないが、今回の新組織体制への移行は、テクノロジーカンパニーであるMicrosoftにとって大きな意味を持つ組織改革であったことは間違いない。

 本稿では、その狙いを分析していく。

米Microsoft本社

Windows & Devicesグループを再編

 まずは、新組織体制のポイントをまとめてみたい。

 最大の変化は、従来、WindowsおよびSurface、HoloLensといったMicrosoftのデバイスを担当していたWindows & Devicesグループを再編したこと。この組織にあった機能が2つの組織に分割された。

 ひとつは、従来のOfficeグループと呼ばれた組織とともに再編したExperience & Devicesである。

 この組織は、ラジェッシュ・ジャ(Rajesh Jha) エグゼクティブ・バイスプレジデント(EVP)が統括。Office365に加えてSurfaceなどのデバイスを担当するほか、Windowsにおいて“Experience”と呼ばれる領域を担当する。

 このExperienceというのは、WindowsのUIやブラウザ、アプリなど、ユーザーが操作する上で、直接触れる領域などを指す。そのエンジニアリング機能がSurfaceというデバイスを担当する部門と一緒になり、さらにOffice 365などを担当する組織と一体化したというわけだ。

ラジェッシュ・ジャEVP(出典:日本マイクロソフトのWebサイト)

 もうひとつは、従来のCloud + Enterpriseを母体としたCloud & AI Platformである。担当するのは、スコット・ガスリー(Scott Guthrie) EVPだ。

 ここにはAzureなど、クラウドに関するエンジニアリングチームに加えて、従来のWindows & Devicesグループにあった、カーネルなどWindowsのコア部分を担当する組織が、Windows Platformとして統合することになる。

 さらに、従来の研究部門であったAI & Researchグループから、コグニティブサービスを移管。AIが実用領域に入ってきたことを示すものになった。

 加えて、Windows & DevicesグループでだったHoloLensのエンジニアリングチームが移管してきたことが見逃せない。この組織は、HoloLensの父と呼ばれるアレックス・キップマン(Alex Kipman)氏が率いるチームで構成され、AI Perception & Mixed Realityという組織名になる。

スコット・ガスリーEVP(WPC 2015 基調講演の登壇時)

 そして、Gamingの組織については、組織名もそのままに、引き続き、フィル・スペンサー(Phil Spencer)EVPが担当。以前からのXboxの開発に加えて、クラウドゲーミングと呼ぶ、クラウドを活用したゲーム開発環境も加速させる。

 またLinkedInは、ジェフ・ウィーナー(Jeff Weiner)氏が担当。引き続き、独立会社として維持されることになる。

 サティア・ナデラ(Satya Nadella)氏がMicrosoftのCEOに就任してから4年目に突入。これまでは、エンジニアリング部門の組織体制や組織名は、スティーブ・バルマー(Steven Ballmer)氏のCEO時代のものを踏襲してきたが、自らの出身母体であるエンジニアリングチームにも、いよいよナデラ流を導入したことになる。

サティア・ナデラCEO(WPC 2016 基調講演の登壇時)

シニアリーダーシップチームの担当組織からWindowsの名前が消えた

 今回の組織改革では、それ以外にもいくつか、特筆すべきことがある。

 ひとつは、シニアリーダーシップチームが担当する組織名から、WindowsとOfficeという、Microsoftを代表する製品名が初めて消えたことだ。

 先にも触れたように、これまでの「Windows & Devices」、そして、「Office」といった組織は、「Experience & Devices」という組織に再編された。

 ブランドマーケティングという観点からはマイナスに感じられるが、エンジニアリング部門における組織再編ということを考えれば、Windowsなどの製品名が組織名からなくなったことはそれほど影響がない、とナデラCEOも感じているようだ。

 そして、シニアリーダーシップチームが率いるそれぞれの組織のなかには、まだWindowsの名称を使用した組織は残っている。

 例えば、Cloud & AI Platformのなかには、先に触れたように、Windowsのコアを開発するWindows Platformという組織が存在する。

 だが、Windowsという名称が最上位の組織名から消えたことは、MicrosoftがWindowsだけの会社から脱却する、という姿勢を感じることができるのは確かだ。

 2つ目には、Windowsのコアを開発する部門が、Azureの組織のなかに入ったことだ。

 具体的には、Cloud & AI Platformのなかに設置されたAzureと呼ばれる組織の下に、Windows Platformという組織が配置されることになる。

 これは、WindowsというOSが、クライアントPC向けのOSとして開発された生い立ちを持ち、それをサーバーやクラウドに展開していったという、これまでの考え方を大きく変化させるものになる。

 いわば、クラウドOSとしてのWindowsの位置づけを、あらためて明確にしたものだといえるのだ。

 先にも紹介したように、Windowsの開発は、Windows & Devicesグループのなかで統合して行われてきた。今回の組織変更では、Windowsのプラットフォーム(コア)とエクスペリエンスの2つに開発体制を分ける仕組みとした。これは、従来のWindows Serverの開発において敷かれていた体制と同じだ。

 クラウド時代のOSの開発体制として、コアとエクスペリエンスを分けたこと、Azureという組織の下で開発を行うという体制へとシフトしたことは、Windowsの開発体制としてみた場合、歴史的ともいえる大きな変革となる。

HoloLensをプラットフォームとして開発する

 3つ目には、従来のWindows & Devicesで一緒に扱っていたSurfaceとHoloLensを別々の組織に分けたという点だ。

 SurfaceはExperience & Devicesに、HoloLensはCloud & AI Platformの組織のなかで、それぞれ担当することになる。

 この新たな体制を敷いたことは、Microsoftからの重要なメッセージが盛り込まれていると受け取っていいだろう。

 それは、Surfaceはこれまで通りデバイスという位置付けで開発を行うのに対して、HoloLensはプラットフォーム開発の部門に移行するということだ。つまり、HoloLensは、さまざまなアプリや技術などが活用されるプラットフォームとして開発する姿勢を強く打ち出したことになる。

 これは、サードパーティーなどと連携して展開するMRデバイスは、HoloLensを担当するCloud & AI Platformではなく、デバイスを担当するExperience & Devicesが担うことや、一方で、HoloLensを担当する組織が、AI Perception & Mixed Realityという組織名になり、AIとHoloLensを融合した形で開発を促進することも、そのメッセージを裏付けるものになるといっていい。

 HoloLensをプラットフォームと位置付け、そこに開発リソースを投入していくという姿勢が新体制で明確になった。

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 こうした新たな組織体制は、2013年からWindows事業を統括してきたテリー・マイヤーソン(Terry Myerson)氏が、このタイミングで退社したこととも関係があるとみておくべきだろう。

 Microsoftで21年間勤務したマイヤーソン氏は、Windows 10の開発を統括するだけでなく、SurfaceやHoloLensなどの主要なデバイス、Windows Serverなども担当してきた。

 いわば、開発体制としては、従来のクライアントPC向けのOSとしての流れを踏襲したリーダーであったともいえ、同氏の退社が、クラウド時代のWindows開発体制を新たに敷くきっかけになったともいえる。

テリー・マイヤーソンEVP(WPC 2015 基調講演の登壇時、肩書きは当時)

 ナデラCEOは、3月下旬に、全社員にあてたメールのなかで、マイヤーソン氏が、今回の新たな組織体制を構築するために手助けをしてくれたこと、Windowsを近代的なOSへと進化させるとともに、同氏が発揮したリーダーシップと洞察力に対して深く感謝しながらも、「私は革新を加速し、将来的には顧客とパートナーのニーズを満たすために、2つの新しいエンジニアリングチームの形成を発表した。これは、インテリジェントクラウドとインテリジェントエッジが、次のイノベーションをどのように形づくるかというビジョンに基づいたもので、これらの技術的変化は、お客さま、パートナーなどすべての人にとって大きなチャンスになる」などと語った。

 今回の組織改革は、Microsoftが、クラウドを軸としたエンジニアリング体制へと、より明確なシフトを行ったものといえる。そして、それはWindowsそのものが、クライアントPC向けのOSではなく、クラウド時代のOSとして開発され、そこにリソースを投下することを示したものともいえる。こうしてみると、見かけ以上に大きな意思が込められた組織改革だといっていい。





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