【バロンズ】デュアルクラス株IPOの問題点 – ウォール・ストリート・ジャーナル日本版



• デュアルクラス・シェアによる新規株式公開が盛ん

「議決権なくして資本調達なし」。デュアルクラス・シェア(議決権種類株式)を用いた新規株式公開(IPO)が盛んになり、少数株主の議決権が弱まる中、この言葉が切実さを帯びている。

 米国の証券取引所ではデュアルクラス・シェアを用いたIPOの割合が2005年の1%から、2014年には12%、さらに2015年には14%超まで拡大している。投資家はハイテク業界の次の大きな波に乗り遅れまいと、デュアルクラス・シェアを採用する新規上場企業の株式を盛んに購入し、見返りに大きな議決権を得ることなく、創業者や内部者に資本を提供している。



 CFA協会のマネジングディレクターであるカート・シャハト氏によれば、デュアルクラス・シェアの普及は世界的な現象であり、現在では 香港証券取引所 、シンガポール取引所も同形式での上場を認めることを検討している。「こうした動きは、株主の権利を弱める底辺に向けた競争といえる」と同氏は指摘する。

 最近では、音楽配信大手の スポティファイ (SPOT)、オンラインストレージサービスのドロップボックス(DBX)、メッセージアプリ運営のスナップ(SNAP)が、議決権の異なる株式をIPOに用いることで、創業者、取締役などの支配権をそれぞれ80%、98%、95%に維持した。 フェイスブック (FB)、グーグル(GOOGL)もデュアルクラス・シェアにより創業者の支配権を維持している。

 シャハト氏は、次のFANG銘柄を逃すまいと、企業の所有者としての権利が弱まることを顧みない投資家の姿勢に疑問を呈している。

• デュアルクラス・シェアは企業の説明責任を損なう

 投資家のショート・ターミズム(短期志向)から経営陣を守ることが、少数株主に対する不平等な扱いを正当化する理由として頻繁に挙げられる。しかし、デュアルクラス・シェアがはらむ問題は、経営陣に対する投資家の目先的な圧力以上に深刻なものだ。

 MSCIは最近のレポートで、「株主は企業の所有者、残余財産の請求者として、出資金額に応じて企業の全ての重大な決定に参加すべきであるが、議決権の異なる株式構造は取締役会の変更や経営陣に異議を唱える株主の能力を弱めかねない」と述べている。

 議決権行使助言会社グラス・ルイスのカーン・マクファーソン氏は、「優れたコーポレートガバナンスには説明責任が求められる」と指摘する。しかし、議決権に格差を設けることで、経営陣と取締役会は説明責任を逃れることになる。グラス・ルイスは2018年のポリシー・ガイドラインで、デュアルクラス構造は通常、普通株主にとって最善の利益とはならないと指摘した。

 国際コーポレート・ガバナンス・ネットワークのジョージ・ダラス氏は、デュアルクラス構造が新興企業を投資家のショート・ターミズムから守る点を認めつつ、経営陣の既得権益化につながると指摘し、「デュアルクラス・シェアを用いる場合、サンセット条項を付帯すべきだ」と述べる。また、アクティビスト(物言う株主)であるバリューアクト・キャピタル・マネジメントのジェフリー・アッベン最高経営責任者(CEO)は、新興企業の創業者が企業を成長させるのに必要な7~10年の期間にかけて、サンセット条項により多議決権株式を解消すべきだと主張している。

 証券取引委員会(SEC)のコミッショナーであるロバート・ジャクソン氏は2月に、「永久的なデュアルクラス・シェアは、投資家に先見の明のある創業者を信頼することだけでなく、創業者の子孫についてまで信頼することを求めている。この点から、上場企業の支配権、ひいては最終的に国民の退職貯蓄の運命までもが、永久に企業内部の少数エリート集団に握られる可能性が高まる」と指摘している。

 デュアルクラス構造に不満を示すのは大手機関投資家も同じだ。カリフォルニア州教員退職年金基金(CalSTRS)のポートフォリオマネジャーであるアイシャ・マスターニー氏によれば、同基金は規制当局、インデックス・プロバイダーと共同で、「デュアルクラス構造は容認できない」とのメッセージを発信することに取り組んでいる。

 データトレック・リサーチのジェシカ・レーブ氏は、アマゾン・ドット・コム(AMZN)が単一の株式クラスを用い、ジェフ・ベゾスCEOの持ち分が16%であるにもかかわらず、同氏がCEOの座を維持し、優れた業績を上げている点を指摘する。

 IPOは往々にして、創業者や内部者にとって出口戦略となるが、現在では、IPOを通じて企業が一般投資家に経営参加というメリットを提供するケースはますます減少している。勢いのある企業を率いる起業家は、運転席の座を譲ることはおろか、後部座席から指示を受けることも望まないようだ。



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