【高論卓説】「人手不足倒産」を防げ 物価上昇分以上の賃上げ不可欠 – SankeiBiz



 厚生労働省は7日、毎月勤労統計調査の2017年分を発表した。これによると、現金給与総額は前年比0.4%増えたが、消費者物価が0.6%上昇したことから、実質給与は0.2%の減少となった。

 現金給与総額(事業所規模5人以上)は全産業の平均で月額31万6907円と0.4%増えた。物価を考慮しない額面ベースでは4年連続の増加になったが、物価上昇の影響で「実質」では2年ぶりのマイナスになった。賃上げが物価上昇に追いつかなかった、ということになる。

 日本銀行は2%の物価上昇をターゲットに金融緩和を実施してきた。黒田東彦総裁が再任される見通しで、当面、この方針は維持される。野党などは物価上昇が目標の2%に届かないとして、アベノミクスは失敗だと批判しているものの、実際には物価はジワジワと上昇している。焦点は物価上昇に負けない「賃上げ」が18年に実現できるかどうかだろう。

 今年も労働組合は春闘でベースアップを求めており、5年連続でベアが実現するのは確実な情勢だ。そうした中で、安倍晋三首相はベアや定期昇給などを合わせた「3%の賃上げ」を経済界に求めている。3%の賃上げが実現すれば、仮に物価上昇が2%でも実質賃金はプラスになる、というわけだ。

 果たして、どの程度の「賃上げ」になるのか。通常ならば強い抵抗を示す経営者の間にも「賃上げやむ無し」のムードが広がっている。というのも猛烈な人手不足に直面しているからだ。厚労省が先月末にまとめた17年平均の有効求人倍率は1.50倍。16年の1.36倍を大きく上回り、高度経済成長期並みの高水準となっている。

 正社員の新規の求人に対して、どれだけ採用できたかを示す「対新規充足率」は13.6%。7人雇いたいと思っても1人しか採用できないことを示している。それぐらい人手不足は深刻なのだ。

 今後、優秀な人材を確保するには、きちんと待遇改善を進めていく必要が出てくる。残業の削減など長時間労働の是正を行う一方で、きちんと「賃上げ」を実行していかないと、優秀な社員ほど会社に愛想を尽かして辞めてしまう。有効求人倍率を見ても分かる通り、就職には苦労しないから、より条件の良い会社に転職する動きが加速する。

 優秀な人材に抜けられたら、どうなるか。残った社員へのシワ寄せが大きくなり、ますます職場環境は悪化する。悪循環に陥り、最終的には「人手不足倒産」に直面することになる。中堅中小企業ほど人材採用難、人手不足が経営悪化に直結しやすい。人手が足らないから営業ができない、という事態に陥りやすいのだ。逆に、優秀な人材を集めることができれば、人手不足に陥ったライバルに勝つことも可能になる。

 どれぐらい賃上げすれば「勝てる」かどうかは業種によってもまちまちだろう。だがはっきりしているのは、物価上昇分以上の賃上げをしないと、働き手は満足しないということだ。今年の焦点は、物価上昇に負けない賃上げをできるかどうか、だろう。

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【プロフィル】磯山友幸

 いそやま・ともゆき ジャーナリスト。早大政経卒。日本経済新聞社で24年間記者を務め2011年に独立。55歳。





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