中小企業の「労働関係七重苦」 – 産経ニュース



 中小企業の事業主が「景気が良いのかもしれないが、実感がない」といった話をすることがあります。なぜ実感がないのでしょうか。その大きな原因として、「労働関係七重苦」が挙げられると考えます。

 (1)採用できない 

 「求人を出しても、応募がない(「少ない」)」。ここ2~3年、こんな話ばかりです。現在の労働市場は、あのバブルの頃よりも売り手市場になっています。恐ろしいことに、その大きな要因が「人口構造」だといわれています。既に団塊世代が引退し、労働世代の人口が急速に減少してしまいました。人口構造の問題は、改善する見込みがないどころか、今後さらに悪化することが確定している状況です。

 (2)すぐ辞める

 やっと採用しても、すぐ辞めてしまう人も少なくありません。大企業の新卒採用者でも、3年以内に転職する人が増加しているといわれます。中小企業の中途採用であれば、売り手市場という社会環境もあって、もっと「気軽に」転職できてしまうのが現実です。

 (3)最低賃金の連続上昇

 今年も全国平均で25円も上昇してしまいました。25円といわれても、ピンとこないかもしれません。単純に週40時間労働・年50週だと年間2千時間ですから、1年で5万円の上昇です。給与の増額は、社会保険料などの負担にも連動します。また、新規採用だけの問題ではありません。近年採用した従業員の給与も押し上げます。これが毎年続くとなれば、経営に甚大な影響を与えかねない事態となるわけです。

 (4)労働時間の問題

 「働き方改革」が議論されています。今年の流行語大賞に選ばれるのではないかと思っています。改革の中心にあるのは、労働時間の問題であり、事業所は適正な労働時間の管理が求められます。日々の運用のことですし、かなりの労力を要します。そして法律の仕組みが、労働時間と給与を連動させています。給与となると、従業員が目の色を変えたりします。最近は間違いなく、中小企業経営者よりも従業員の方が、労働法に詳しくなったと感じます。

 (5)メンタルヘルス対応

 心療内科を受診する人の数が、激増しているように感じます。連動して「事業所の責任で精神疾患などに罹患(りかん)した」と責められるケースも増えています。責められなくても、休職などの対応を迫られます。しかも、下手な対応をして症状を悪化させるわけにはいきません。極めて難しい対応を強いられているのが現状です。経営者から「こっちが精神疾患になりそうだよ」とよく言われます…

 (6)問題社員を解雇できない

 厳密にいえば、解雇できないのではなく、解雇することで労働紛争や経済的損失のリスクを負うということです。最近は「すぐ辞める人」が増えているはずですが、問題社員に限ってなかなか辞めないという悩ましい現実があります。

 (7)関係法令の改正

 労働関係法令の改正が、頻繁に行われています。法改正のスピードに、中小企業はなかなかついていけません。

 経営者にとって、夢や希望を打ち砕くような話ばかりでした。しかし、決してそのようなつもりはありません。

 社会の労働関係法令への関心が異常に高まる中、事業主には、労働法の落とし穴に落ちないよう、労働関係法令の認識を深め、あらかじめ対応をしてもらいたいのです。日々忙しい事業主にとって、特に問題が発生しない限り、労働分野は「二の次」の扱いをしてしまうケースが少なくありません。しかし、この扱いこそが、何らかの問題が発生したときに、被害を拡大させているのです。

 現在の労働法が正しいとは思いません。しかし、法治国家においては、コンプライアンスほど重要な事項はありません。労働関係七重苦をはね返し、経営者も従業員も元気で居続ける職場環境の構築を目指していただきたいと願います。

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 安藤 政明(あんどう・まさあき) 昭和42年、鹿児島市生まれ。熊本県立済々黌高、西南学院大、中央大卒。平成10年に安藤社会保険労務士事務所開設。武道と神社参拝、そして日本を愛する労働法専門家として経営側の立場で雇用問題に取り組んできた。労働判例研究会、リスク法務実務研究会主宰。社労士会労働紛争解決センターあっせん委員。警固神社清掃奉仕団団長。





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